大分県中津市弁護士  お気軽にご相談ください。

トップ  > ●弁護士のつぶやき  > No. 70~検察庁法改正案について~|大分県中津市弁護士中山知康

大分県中津市の弁護士法人中山知康法律事務所のホームページへようこそ

お気軽にお電話下さい。
日ごろ直面するさまざまなトラブル、まずはご相談下さい。 
お電話でご予約
0979-23-0239 
月~金曜日(日祝祭日を除く前9時から午後5時まで)

衛生対策

  
当事務所では、衛生対策として、アクリル板の設置、換気、空気清浄機、及びご相談が終わりますごとに、机、イス、ペン等の消毒を行っております。

 

 

No. 70~検察庁法改正案について~|大分県中津市弁護士中山知康

 

1 現在、「♯検察庁法改正案に抗議します」というタイトルで、SNS等にたくさんの意見が発表されています(こうしたネットデモと呼ばれる抗議運動とそれに対する様々な批判については、後日、書きたいと思います)。

  今回の騒動の発端は、政府与党が国家公務員法の改正と抱き合わせで検察庁法も今国会で是が非でも改正しようと強硬に推し進めてきたこととその姿勢です。

  特に問題なのは、検察官の定年年齢の引上げそのものではなく、既に多くの方がご存じだと思いますが、検事総長等の重職にある検察幹部の定年を政府の判断(即ち、裁量)で特例的に延長できるという点にあります。

2 何が問題なのか、もう少しお話しすると、まず、検察官というのは、ある犯罪の被疑者について起訴不起訴を決定したり、刑事事件の裁判を担当するだけでなく、政治家や高級官僚などの汚職や重大な経済事犯などを直接捜査する権限も持っています(有名な東京地検特捜部や大阪地検特捜部)。

  わが国の刑事司法制度では、起訴不起訴の決定権は検察官にだけ認められているので「起訴独占主義」と言われますし、そうした権限を独占的に担う検察官は「独任制の官庁」とか、「準司法官」とも呼ばれます。

もちろん、検察庁内部では、一人の担当検察官が独断で起訴不起訴を決定するのではなく、上司の決済を経なければなりませんので、これによって、法の下の平等や全国的な公平性が保たれています。

しかし、そうした決済システムは存在するものの、基本的には起訴不起訴は検察官の専権であり、検察官が起訴して初めて刑事裁判が開始されますので、刑事司法手続きにおける社会正義の実現は、検察官がその開始を告げる権限を持っていることになります(ですので、検察官の不起訴処分が不当だと思われる場合のために、検察審査会という制度が設けられています)。

3 このように、検察官は、時には要職にある政治家などを逮捕したり、起訴する権限を持っており、これによって、社会の腐敗をただし、社会正義を実現するという使命を負っています。

そうした準司法官と呼ばれる検察官について、監視され、時には取り締まられる側にある政府、即ち、政治家が、その裁量で定年を延長できるように改正しようというのは、いわば自分のお気に入りを重用することで、自分に対する取締りに手心を加えてもらおうという下心が見え見えではないかと、簡単に言えば、そういう批判を浴びているわけです。

現に、重職にある検察官の定年を延長する際の基準さえ現時点で明示されておりませんし、仮に一定の基準が示されたとしても、上記のような使命を担っている検察官の定年延長を、政府の判断で特例的に認めるという制度そのものが、そもそも公正ではないし、権力の分立に反し、権力の濫用を助長しかねないものであることは明白であろうと思います。

3 私たち法律家の間では、よく「立憲主義」とか「法の支配」という言葉を用います。

  法律家以外の人にはあまり馴染みのない言葉であり、一見わかりにくいかもしれませんが、「立憲主義」というのは権力の濫用を抑制するために権力の担当者の行動を縛るという考え方であり、「法の支配」という言葉は「人の支配」(即ち、独裁制・専制政治)の反対概念です。

  日本国憲法も、立憲主義、法の支配の考え方に基づく装置を随所にちりばめています(三権分立や司法権の独立だけでなく、衆参二院制や地方自治などの制度と、それらの目的である豊富な人権規定などです)。

  立憲主義と法の支配、そして、その目的である人権宣言は、これまで人類が長い年月をかけ、かつ、多大な犠牲を払って獲得したものです。

ところが、今回の検察庁法改正案は、立憲主義や法の支配を打ち壊し、「人の支配」に陥りかねない危険を内包しているのです。

4 これほどまでに多くの方が、今回の検察庁法改正案に反対し、抗議している理由は、上述したような危険を我がこととして感じて、恐怖心を抱いていることの表れだと思います。

  ですので、政府・与党には、これほどまでに問題のある特例規定は直ちに撤回してほしいと思っています。

5 最後に、今年の1月に、政府が特定の検事長の定年延長を閣議決定したこと自体も違法だと思います。

検察庁法は国家公務員法の特別法ですので、検察庁法に定年延長の規定がない以上、国家公務員法によって定年延長をすることはそもそもできません(特別法は一般法を破る)。

また、検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されないというのは、長年政府自身が表明してきた確定した公定解釈であり、既に法秩序として確立しています。

それゆえ、検察官について、一般の国家公務員と同様に定年延長の制度を設けようと考えれば、今回の検察庁法改正案のように法律そのものを改正するしかないはずなのです。

それにもかかわらず、政府は、解釈変更によって検察官にも国家公務員の定年延長規定が適用されるようになったなどと強弁しています。

こうした姿勢・態度は、一内閣の解釈変更によって実質的な法改正ができるとでもいうかのようであり、民主主義を根底から否定しかねないものです(内閣による独裁)。

ですので、現在の違法状態(定年延長がなされている状態)自体を、直ちに是正すべきだと思います。

(2020.5.18)