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No. 62~鉄道の合理化と安心感について~|大分県中津市弁護士中山知康

1 最近、私の住む大分県中津市にも関係する話題として、JR九州のダイヤ改正と減便というのがありました。

  ダイヤ改正はどこでも定期的に行われているものですが、減便というのはこれまであまり聞いたことがなく、どういうことかと思っていたら、要するに、早朝の始発電車や深夜の最終電車の削減とか、同じく早朝の始発電車や深夜の最終電車についての発着駅の変更(始発電車の発車時刻をこれまでよりも遅い時間としたり、最終電車の終着時刻をこれまでよりも早い時間にするために、走行区間を短縮し、それに伴い始発駅や終着駅を変更するもの)というものでした。

  これに対して、沿線自治体の首長や利用者などからは、やはり早朝・深夜時間帯の鉄道運航の復活を求める意見が根強く、それはとにかく利便性が悪くなるという理由からのものです。

2 政府の方針だとか産業界や経済団体の掛け声だとかは措いておいたとしても、労働時間の短縮や効率化といった働き方改革は、私たちを取り巻く社会の大問題の一つです。

  ですから、鉄道などの公共的公益的事業で働く人たちの労働環境を改善するため、労働の内容を効率化し、労働時間を短縮していくことも喫緊の課題だと思います。

この問題に関しては、例えばスーパーやコンビニエンスストア、外食チェーン、さらには医療機関などでも同じことが言えるでしょう。

結局は、本当に年中無休とか24時間営業とか、長時間店舗や施設を開けておいてもらわないといけないのかどうか、利用する側の心構えや準備、モラルなど、いろいろと考えなければならない問題がありそうです。

 そうした意味で、前述の早朝・深夜時間帯の鉄道減便問題などについては、利用する側も、利便性の観点だけから要求をしていいのかは、一度立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。

3 ただ、そうはいっても、利便性だけでなく、事業や労働の効率化については、別の観点からも検討すべき問題があると思います。

  それは、特に公共的公益的施設での利用者の安全や安心感の問題です。

  一昔前は、まだまだ多くの駅で、自動改札よりも、駅員さんのいる改札というものの方がなじみがありました。つまり、駅員さんが改札に立って、切符に鋏を入れたり、受け取って回収したりしている様子が普通だったと思います。

しかし、今では、都市部だけでなく地方でも、駅の改札といえば自動改札が普通です。駅員さんは駅の事務所内にはいるのですが、改札付近では見かけないというのが今の普通の光景です。

さらに言えば、小さな駅では駅員さんの姿もなかなか見かけないという駅もあります。

そして、先ほどの鉄道会社の方針変更の一環として発表されているのが、減便等だけでなく、複数の駅の無人化です。これは労働環境の改善や安全性確保(駅員が少ない駅では交替制により業務を運営することは不可避ですが、短期間での交替の繰返しは肉体的にも精神的にも疲労が蓄積しますし、駅員が少ないことは労働環境の安全性にも関わります。)にも関係はしますが、どちらかというと経営の効率化・合理化の問題なのだろうと思います。

民間企業である以上、経営の効率化や合理化は避けては通れない問題ですし、簡単に批判もできません。

しかし、それでも、駅の無人化は、他の観点からもう一度考え直してほしいと思います。

4 それは、利用者の安全や安心感の問題です。

  言うまでもなく、駅に人がいるのといないのとでは、利用する側にとって安心感が全く違います。夜に帰宅する女性や学生などにとって、無人駅で降りるのと有人駅で降りるのとではやはり心理的に異なるところがあると思います。

  そして、それ以上に思うのが、障害のある方や高齢者などにとって、無人駅では実際に困る場面が出てくるのではないかということです。

  卑近な例で申し訳ないのですが、一昔前まで(つまり自動改札になる前)、私がよく利用している駅では、特急電車に乗りたいのに準備が悪くて切符を買っていると間に合わないとか、既に特急電車がホームに到着していて階段を上っている間に電車のドアを閉じられてしまいそうだというときに、改札の駅員さんにその旨告げると、電車の車掌さんに連絡してくれて、数十秒ですが電車の発車を待ってくれるという運用がなされるのが日常の光景でした。

  こうした例は都会では到底あり得ないものであり、ダイヤが過密でない地方の路線で、しかも、その駅では特急電車の利用者が数人からせいぜい数十人という規模だからこそできていたものであって、到底胸を張って言える話ではないことは分かっています。むしろ、多数の人が利用する電車の利用方法に関して、ルールに無知な田舎者の甘えであったことは自覚しています。

  しかし、こうした甘えはもはや許されないにしても、改札に駅員さんがいなければ、実際に困る人たちはたくさんいると思います。それは、身体に障害を抱える人や高齢者にとって、気軽に声をかけられて、手助けや配慮をお願いできる環境があるかないかという問題だと思うのです。

5 労働環境の効率化や時短は大切な問題です。

  同時に私企業である鉄道会社の経営合理化・効率化も大切な問題です。

  しかし、それを利用する人の中でも、手助けや合理的配慮を必要とする人たちに冷たい合理化は、考え直してほしいのです。

  鉄道(鉄道だけでなく、他の公共的な施設や店舗すべてそうですが)を利用する人にとって安心して利用できること、そうしたことを維持することも経営にとって合理的な目標であることを、社会全体の共通認識とできれば、より生活しやすい社会となるのではないでしょうか。

  もちろん、そのためには、みんなで負担を分かち合う覚悟も必要ですが、いずれ誰でも高齢者となり、場合によっては病や事故によって障害を抱えることも決してないとはいえないのですから、手助けや合理的配慮を前提とした公共的負担の在り方も議論すべき時期が来ているのだと思います。
                                           (2018.6.24)