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No. 25~責任無能力者の不法行為と損害の賠償~|弁護士のつぶやき|大分県中津市弁護士中山知康

No. 25  責任無能力者の不法行為と損害の賠償 
 



最近忙しさにかまけて、ずっと更新していなかったので、少し反省しています。

今日は、少し前に判決が出て、マスコミでもかなり話題になっていた問題について、少しだけお話ししようと思います。

先日話題になっていた裁判というのは、重い認知症の人が不法行為により他人に損害を与えた場合に、家族などがその責任を負わなければならないかという事件(もう少し具体的に言うと、認知症の高齢男性が、線路内に入って鉄道事故に遭った事件で、鉄道会社が乗客の振替輸送などで損害を被ったとして、高齢男性と同居していた妻と別居ではあるが介護にある程度関わっていた子どもに対して損害賠償を請求した事件)のことであり、1審では妻と子どもに損害賠償責任が認められ、2審では妻にだけ損害賠償責任が認められました。

この件では、損害賠償を請求しているのが大企業であり、他方で、請求されているのが亡くなった方のご遺族、中でも、自身も高齢の妻と離れて暮らしている息子だということで、マスコミ等、世論の大勢は、遺族が損害賠償を請求されるのは気の毒だという、極めて素直、あるいは常識的な価値観に基づいて、1審、2審の判決に批判的・懐疑的だったように思います。

そのような中で、最高裁は、妻についても、子どもについても損害賠償責任を否定しました。当然ながら、この判決は、マスコミ、認知症患者の関係者や関係団体だけでなく、多くの方にとって、良識ある判決として好意的に受け止められたのだと思います。

この事件には、民法714条に関する難しい解釈(責任無能力者を監督する「法定の義務」を負う者とは誰かという問題)が関わっており、ここで簡単にお話しすることはできませんが、いずれにせよ、家族であるという理由だけで、あるいは同居している配偶者というだけで重い監督責任を負わせられるのか、複数いる子供の中でも、ある程度介護に関わったり、関心を寄せていた方が重い監督責任を負わされることになるのかといった極めて素朴な疑問を生ずる問題であり、特に、身近に認知症の方がいて、現実に介護等に携わっている方々にとっては、切実な問題として、最高裁判決が待たれていたのだと思います。

この事件、結論としては、私は、責任無能力者を監督する「法定の義務」をある程度厳格に解釈したことには賛成ですし、同居しているだけ、あるいは、介護に関われば関わるほど責任が重くなるというのは、諸子均分相続(子どもたちの相続分が平等ということです。)が定められている以上、あまりに不公平であり、不合理だと思いますので、結果的にはよかったのだと思っています。

ただ、それでは、どのような立場の人に上記の監督義務が認められることになるのかは、今後の裁判例の蓄積を待つ必要がありますし、同居の家族などが絶対に責任を負わされることはないというわけでもありませんので、今後も、同じような事件が起きるたびに問題が起こる可能性はあります。

その意味では、介護に関わる方、重い認知症患者の方が身近にいる方にとっては、充実した保険制度が必要不可欠になってくるのかもしれません。

他方で、もう一つ気になる点もあります。

重い認知症の方などは責任能力がないものとして、人にけがを負わせるなどの不法行為を行っても、損害賠償責任を負うことはありません。だからこそ、監督義務者が責任を負うことが定められていて、小学校中学年くらいまでの子ども(おおむね責任無能力とされることが多いと思います。)が人にけがを負わせたりした場合には、その親権者である親は、監督義務者として、ほとんどの場合(監督責任を尽くしていたことなどが認められない限り)、その責任を免れられません。

ところが、認知症患者の場合には、誰が責任を負うのかが、今回の裁判でも全くわからないままであり、むしろ、今回の件では誰も責任を負わないということが明確になったので、その点に大きな不安が残るのです。

今回の件は、被害者は確かに大企業でした。その意味では、被害者が負けたとしても、世間的にはまあ仕方ないと受け止められやすいかもしれません。

しかし、常に大企業が被害者になるわけではありません。むしろ、被害者は個人であったり、中でも、自己防御能力の低い小さい子どもやお年寄りであったりもします。中小企業だって、予期せぬ事故、不法行為によって、会社が倒産するような目に遭うかもしれません。そのとき、加害者がたまたま認知症の方だったため、誰も責任を取ってもくれない、泣き寝入りだとしたら、納得がいくでしょうか?

交通事故であれば、少なくとも自賠責があり、通常は任意保険による賠償も期待できると思いますが、仮に、今後、誰も責任を負わない不法行為が一定程度発生するとした場合、運が悪かったということで済まされるでしょうか?

その点も、いま、考えておく必要があると思うのです。介護に携わる方や認知症の方が身近にいる方たちにとっても保険制度は必要不可欠になると思いますが、同時に、運悪く何かの被害を受ける場合もあるのですから、そのための賠償責任保険制度も必要なのだと思います。

もちろん、保険制度となると、誰が保険料を支払うのか、民間の通常の保険制度でいいのか、それとも、自賠責のような強制保険制度を考案すべきなのかとかいろいろ考えなければならないところはありますが、今回の事件を機に、今すぐ考え始めなければならない気がします。

(2016.3.24)